オーガニックとは
オーガニック=健全な食物連鎖を守るための取り組み
「オーガニック」は日本語で「有機」という意味。一般的には、農薬や化学肥料に頼らず、本来持つ土壌の力や自然の恵みを活かした農法、栽培方法、加工方法のことを指します。環境への配慮はもちろんのこと、人、動物、植物、微生物などのすべてのものを公正に扱い、地球全体としてより良く生きられるように配慮することが求められています。
記事監修
大山 利男
立教大学 経済学部経済政策学科 大学院ビジネスデザイン研究科 准教授
農業経済学とフードシステム学の分野で研究を行っており、特に有機農業、食品安全、自然共生型農業などのトピックに精通、海外の農業についても幅広い視点から研究を行っている。
プロフィール▷https://univdb.rikkyo.ac.jp/view?l=ja&u=100000461
1.オーガニックの目的
環境の保全:
自然を環境汚染から守る
化学肥料・農薬の不適切な使用は、自然を脅かす原因になります。有機農業で使う堆肥は、土壌を改良させる効果が見込まれ、温暖化抑制につながります。
自然との共生:
生物の多様性を守る
地球上の生き物の種類が年々減少する中、植物や動物、微生物などすべての生きものは共に関わりあうため、その生態系のバランスを崩さないことが大切です。
適地適作:
土地を活かし文化を守る
その土地の気候や土壌条件を考慮して、最も適した作物をつくることや地産地消の推進によって、その地域がもつ固有の文化を守ります。
健全な社会:
児童労働・格差から守る 農業者の健康を守る
児童労働や格差を防ぎ、関わるすべての人々に十分な賃金が払われるよう配慮します。社会的公正の観点から、農薬曝露による健康被害から農業者を守ります。
健康な生活:
食品の安全性を守る
次世代の健康、幸福、環境を考え、保存料や着色料などの添加物をできる限り低減し、食品の安全性を守ることで、持続可能な社会を実現します。
2.オーガニックと似ていることばの違い
オーガニックについて調べてみると、よく似た言葉が出てくると思います。
ここでは、それぞれの言葉の違いをお伝えします。
無農薬との違いは?
無農薬とは、「農薬を使用せずに生産する」ことを指します。「オーガニック=無農薬」と思われがちですが、「オーガニック」と表示されている場合でも、使用が認められている農薬もあるため、完全な無農薬ではない場合もあります。
無添加との違いは?
無添加とは、「化学薬品や添加物などの内、特定の物質を使用していない」ものを指します。特定の物質には、保存料や香料、着色料などがあげられますが、具体的なルールが決まっていない非常にあいまいな表現といえます。
サステナブルとの違いは?
サステナブルとは「持続可能な」という意味です。商品の生産方法だけではなく、流通・販売などのそれぞれの段階における環境や社会的な配慮が行われているかが重要です。
エシカルとの違いは?
エシカルとは、「倫理的な」という意味です。人が本来もつ社会的な規範で、人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動のことを指します。
ナチュラルとの違いは?
ナチュラルとは、「自然の」という意味です。化学合成原料の使用を極力抑える、または全く使用せずに、自然界にある天然由来のものを使用している際に表現されます。
ボタニカルとの違いは?
ボタニカルとは、「植物由来の」という意味です。植物から抽出した成分を使用して作られている製品のことを指します。植物由来の成分がひとつでも配合されている場合に「ボタニカル」と表現することができるため、「オーガニック」のような厳しい基準はありません。
3.オーガニック食品とは
オーガニック食品とは、農薬や化学肥料に頼らず、太陽・水・土地・生物など自然の恵みを生かした農林水産や加工方法によって作られたものを指します。日本では、「オーガニック」あるいは「有機」と表示するためには、生産者や加工業者が登録認証機関の検査・認証を受けることで、「有機JASマーク」を貼付することができます。
オーガニック食品のメリットとデメリット
自然の力を生かした素材は、地球環境にやさしいだけでなく、素材ごとの旬を楽しむことができるメリットがあります。一方で、生産時の作業時間が増えたり、コストがかかることも多く、価格は高くなる傾向にあります。
オーガニック食品の具体例
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野菜
堆肥等で土作りを行い、種まきまたは植え付けの前2年以上、禁止された農薬や化学肥料不使用で生産される。周辺から使用禁止資材が飛来・流入しないように必要な措置を講じているものでなければならない。
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コーヒー
栽培条件をクリアした上で、生豆の生産処理や焙煎をはじめとする、すべての加工段階において、添加剤や加工補助剤が使用されていないこと。
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ワイン
2022年10月より酒類の有機JAS登録が可能に。発酵の過程で発生する不純物を取り除く際、目の粗いフィルターを使うなど本来の味わいを生かした製法。ワインの劣化を防ぐため、一部の化学物質は極めて少ない量の基準で許可されている。
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紅茶
収穫後の茶葉の処理や製造工程での衛生管理、香りや風味の保持などに配慮することが求められる。畑で摘まれた茶葉は水で洗わずにそのまま加工され、直接口にするため、オーガニック食品を選ぶことはより安心できる選択肢である。
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はちみつ
現在、有機JASの規格はない。海外の基準では、飼育場から半径3km以内は、基本的に有機的に生産された作物または野生の花蜜と花粉であること。都市中心部から十分な距離を保つなどの厳しい基準がある。
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お米
丹念に田んぼを耕すことで微生物が豊富な土壌をつくることができる。雑草や害虫などから稲を守るため、農薬や化学肥料の代わりに、アイガモ農法や、鯉を泳がせるなど、生態系に配慮した工夫も。
4.オーガニックコスメとは
オーガニックコスメとは、有機栽培で育てられた植物成分を主成分にしたコスメです。石油由来の合成界面活性剤や防腐剤、人工香料などを添加しておらず、自然の成分のみで作られています。伝承医学に基づいた「自然療法」がベースで、肌がもつ自然治癒力を高めて健康な肌へと導くことに重きをおいたものが多いのが特徴です。
化粧品(オーガニックコスメ)
- オーガニックコスメの認証条件
- 世界には複数の認証機関があり、それぞれ基準を設けています。天然由来成分の配合比率や、有機農法、遺伝子組み換えしていない動植物から得られた原料であることなどが定められています。全成分のうち、決められた割合のオーガニック原料を使用することなど、成分の元となる素材をつくる段階から、工場、お客様の手に渡るまで厳しい基準をクリアしたものだけが認証を受けることができます。
- ケミカルコスメとの違い
- ケミカルコスメは、より高い効果を発揮するために科学的な処方がされています。成分には、化学合成されたものや石油系のものを使用しており、オーガニックコスメと比較すると、即効性のある効果を求める方におすすめです。
- オーガニックコスメを選ぶメリット
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MERIT 01
肌本来の力を引き出してくれる人間の肌には本来、外部から受けたダメージに対して自分で修復する力が備わっており、この力を引き出すことで、よい肌状態へと導きます。
MERIT 02
肌への刺激が少ない低刺激の商品が多く、敏感肌や肌トラブルに悩む方も安心して選ぶことができます。
5.日本でのオーガニックに対する考え方
日本では、オーガニック商品として販売するためには有機JAS認証を取得し、有機JASマークを商品に表示することが法律で義務付けられています。
農林水産省が考える「オーガニック(有機農業)」とは
化学的に合成された肥料
及び農薬を使用しない
遺伝子組換え技術を
利用しない
農業生産に由来する
環境への負荷を
できる限り低減する
上記3点の観点を守って行われる農業です。
2006年度に策定された「有機農業推進法」によって定められました。
有機JAS認証制度のしくみ
栽培方法、加工・取扱方法、使える肥料や食品添加物などの資材に関する公的基準です。日本において有機基準が制定されているのは、「有機農産物」「有機加工食品」「有機畜産物」「有機飼料」「有機酒類」にくわえて海草などの「有機藻類」があります。コットンなどの繊維製品やコスメティクスなどは国の基準がありません。
有機農産物
- 農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産すること
- 採取場において、採取場の生態系の維持に支障を生じない方法により採取すること。
有機加工食品
- 原料となる有機農産物を活かした、製造方法をする。
- 添加物、薬剤等の使用を避けることを基本とする。
6.日本でオーガニック商品を販売するには
圃場・栽培場の条件
有機圃場では農林水産省が指定したリストに記載された農薬、化学肥料しか使用しないことが条件となります。
そのためには圃場(作物を栽培する場所)に周辺から禁止物質(リストに記載されていない農薬や化学肥料)を飛来流入させない対策が必要になります。一般作物を栽培している圃場と距離を保つため、緩衝地帯を設ける他、緩衝樹木、防風ネット、緩衝水田の設置などで流入対策を行います。圃場との距離は隣接する作物や圃場の高低差などによって様々ですが、4〜5mが一つの目安となっています。
有機圃場への転換期間
有機農産物を栽培するためには、圃場を有機に適した土にする必要があります。そのため一般農産物を栽培(慣行栽培)していた圃場は、多年生植物で収穫前3年以上、1年生植物では播種・植付け前2年以上の、転換期間を設ける必要があります。
収穫前に1年以上有機管理した圃場の収穫物は、転換期間中有機農産物と注釈を入れた上で有機農産物として販売が可能です。
有機加工食品の原料比率
有機で生産した農産物や畜産物を加工食品にする場合は、水と塩を除く原材料の95%以上が有機原料でなくてはなりません。
加工業者は原材料の仕入れ先に配合比を確認し、最終的な商品の有機原材料の比率が正しく基準を満たすよう調整します。以下の図は有機加工食品と認められない事例です。
原料の汚染リスク管理
有機加工食品を生産する事業者は、原料の保管においても細心の注意を払います。非有機原料の混入や、防虫剤などの禁止薬剤による汚染、殺菌のための放射線照射を防ぐため、保管施設の設備設計や、従業員教育など各事業者ごとに基準を定めて運用を行なっています。施設の運用に関しては、毎年有機JASの認証機関の審査が行われ、認証の基準が満たされているかチェックを受けます。
7.オーガニック商品を販売する流れ
登録認証機関での書類・実地での検査を通過し認証を受けたのち、
「有機JASマーク」をつけた商品の販売ができるようになります。
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生産農家や製造業者による認証申請
登録認証機関などが実施する講習会に参加して、有機JASのしくみについて理解を深めた後、必要事項を記載した申請書を提出します。
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登録認証機関による審査・認証
申請書の確認後、実地検査を経て認証を受けます。実地検査では主に下記の確認がされます。
・申請者・生産工程管理者・格付担当者への聞き取り確認
・圃場や施設の実地確認
・作業日誌や出荷記録、購入伝票などの書類の確認 -
有機JASマークを付けた商品の販売
検査員の報告書に基づき、登録認証機関において審査が行われます。無事に承認されると、認定書が送られてきます。「有機JAS認証取得」ができたこととなり、農産物や加工食品にJASマークを貼付して出荷することができるようになります。
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認証継続のための定期的な調査
2年目以降認証を継続する場合は、再度申請書を提出し、この審査手順と同様に進めることになります。認証を継続するには年に1回検査を受ける必要があります。
オーガニックの取り組み
オーガニックの商品を選ぶことは、⼈や環境の健全な循環の⼿助けになります。有機認証は環境への配慮と人の健康への配慮が義務付けられており、「有機JAS」は法律で定められています。有機認証は⽣産者から様々な事業者を経て守られる信頼のバトンなのです。